庭にお願い

池袋シネマ・ロサ倉地久美夫の映画『庭にお願い』。いろんな証言とかエピソードとかを十分に積み重ねておいて、では倉地とはナニモノなのか、という答えというか着地点を明瞭にせず、最後におそらく倉地トリオとしては最上の演奏で締める、というのがいい。どんな言葉よりも音楽そのものに勝るものはない、みたいなことを言ってる感じで。謎がいっぱいある音楽で、その謎を解き明かそうとしているんじゃなくて、ヒントをちりばめておいて謎は謎のまま宙に浮いている、みたいな感じというか。それで見終わった後には、彼のすごさというものだけが重く残る、そういう映画なんじゃないかという気がします。

映画の中で倉地が、外山明はコメントすることを嫌がっていた、みたいなことを言っているけど、外山のコメントがないというのがひとつのポイントみたいな気がします。たぶん共演者で外山が倉地を最も理解しているんじゃないかと思うんですが、共演者で語るのは菊地成孔に一任しておいて、外山は演奏だけ、っていうのがすごくしっくりくるような。その外山の演奏が、倉地をずっと鋭い眼光で見ていて、もう全身で倉地の世界に入っていこうとしているみたいで、なんかあれで十分っていうか、皆まで言うな、みたいな感じで。そういう、監督と本人との間に一定の距離感が終始あって、そこが心地よかった。なんていうか、謎のままであってほしいみたいな気がするし、監督にもそういうのがあったんじゃないかって思うんですよね。

併映のテレビ・ドキュメンタリー番組『クラチ課長の凡な日常の非凡』が、真っ当な切り口で倉地の人物像を浮き彫りにしていくようなものだったから、映画との違いや映画の独自性が鮮明になってて、そこがまた興味深かったですね。そっちもおもしろかったけど、おれは映画のある種突き放したような感じの方が好きかも。

それにしても前述した倉地トリオの演奏は、ちょっとすさまじいものがありますね。おれはこの渋谷ルデコのライヴを見ているんですが、おれが見たのは別の日で、トリオ見ておけば良かったと今さら後悔しましたね。