倉地久美夫

スーパーデラックス。本人ずいぶんテンションが高く、そのぶん歌の色気がいつもより増していたような。ヌメッとした艶というか妖気というか。菊地成孔も珍しくエキセントリックな音を出したりして、倉地の世界に2人が引き込まれていくみたいな構図がおもしろかった。それに、あの倉地のいびつなリズム感に呼応できるのは、やっぱ外山明しかいないでしょう。この3人のマジックみたいな吸引力がビンビン出ていて、すごく特別な時間だった。こんなにもっとやって欲しい、終わらないで欲しいと思ったライヴも珍しかった。あと2時間でも3時間でも全然オッケーだった。

大友良英サウンドトラックス

新宿ピットイン。ピットインの大友系ライヴでこんなに華やかだったのは初めてじゃないだろうか。顔ぶれも雰囲気も。特に後半、大友自身の解説を交えながらどんどん曲をやっていくのがもう至福って感じで、それが次第にディープになっていって、阿部芙蓉美の「その街のこども」でピークに達する、というような流れがお見事だった。

阿部芙蓉美の声は、ソロよりも大友とやった時の方が断然いいと思うのだが。なにかが宿るっていうか化学反応というか。あと七尾旅人のインプロヴァイザーとしての才能はやっぱりすごい。

豊田道倫&ザーメンズ

渋谷ネスト。豊田道倫はソロを挟んでやったぶんソロとザーメンズの対比がより明瞭になった感じで、バンドは以前より粗暴というかノイジーな音になったような。三輪二郎のギター・ソロがかっちょよくてツボ突きまくり。

最初のどついたるねんは、方向性のよくわかんない着地点なしな感じとか、曲ごとに楽器が変わるとか、全員服装バラバラとか、意味不明混沌パワーって感じで激しくウケた。なにより客席にダイヴ(というかダッシュ)する時のイキっぷりの良さと、下着女の容赦ない壊れっぷりが素晴らしかった。

あと前野健太、ずいぶん久々に見たけどスッゲー良かった。バンドの演奏も歌もなんかスッコーンって突き抜け感があって、ちょっとゾクッときた。旬の人特有の目に見えない力が働いてる感じっていうか。特にラストのギターと二胡のバトルが圧巻だった。

山本精一CFZG

スーパーデラックスでファジー・グルーヴ再現ライヴ。ガイドラインっぽい打ち込み以外はほぼ全編生演奏(+山本さんの物音)の人力ミニマル・アンビエント。メンバー全員の集中力が尋常じゃなくて、特に千住・達久のデリケートで思慮に富んだドラミングが悶絶ものだった。

1曲目から、ああもうこの曲だけで2時間でも3時間でもオッケーってなくらいに気持ちよかったし、オリジナルの倍以上の長さに拡大したみたいなラスト「Mantral」の多幸感いっぱいな演奏も激しく泣けた。ライヴ盤とかで出すべきと思うくらい素晴らしかった。

二階堂和美

渋谷クアトロ。1年前の同じ場所でのライヴと同じモードでありつつ、演奏も歌も見せ方も格段にグレードアップした感じ。お色直し4回とか阿波踊りとかサンバ・ダンサーとか、もうエネルギーの放出量がケタ違いにすごい。すべてに於いて過剰なライヴで、この過剰さが今っぽいと思った

もはやタラ・ジェイン・オニールとかよりも、梓みちよとか笠置シヅ子とかの方に近い歌手といえるけど、そういうウンヌンなぞどうでもよい、っていうパワーが今の彼女にはある気がする。ヌケっぷりのいいパワーっていうか。それにこの人はどういう歌を歌っても変わらないなにかがあるような。

シガー・ロス爆音上映

吉祥寺バウスシアターで、シガー・ロス『インニイ』爆音上映。光と闇のコントラストを強調した、ひとつひとつのカットが1枚の写真みたいなカメラ・ワークが秀逸で、このバンドの美学が漲ってる感じ。なによりテッド・ジャンセンのマスタリングによる音質が素晴らしく、それをほとんど最大限に生かした爆音システムがすさまじい迫力だった。

ボア映画の時なんかも思ったけど、このバウス爆音上映って、少なくとも音楽映画に限って言えば、作品の正確な評価とか判断とかをするには必要な環境って気がする。このシガー・ロスも、違う環境で見たら印象がだいぶ異なると思えるし。

七尾旅人×山本精一

吉祥寺マンダラ2、約5時間の長尺ライヴ。特に前半のギター、エレクトロ、ノイズ、歌、ヴォイス云々による即興セッションが圧巻。七尾のヴォイスには狂気が宿ったかのような迫力があったし、山本さんの木訥としつつ攻撃的な歌との対比も鮮やかで、両者の方向性にもブレがなかった。2月のグッドマンよりも格段に良かった。ジャーマン・ロックっぽいケイオティックなサイケデリック宇宙って感じで、音源として出せばいいのにと思うくらいだった。